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東京地方裁判所 平成7年(ワ)10500号 判決 1999年3月15日

原告

佐藤一志

原告

広浜綾子

原告

原田高志

原告

山本弥生

原告

杉村和美

右原告ら訴訟代理人弁護士

中西義徳

被告

株式会社イー・ディーメディアファクトリー

右代表者代表取締役

江良達雄

飯塚劭

右訴訟代理人弁護士

今井征夫

主文

一  原告らの請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は、原告らの負担とする。

事実及び理由

第一請求

原告らが被告に対し労働契約上の権利を有する地位にあることを確認する。

第二事案の概要

一  本件は、原告らが労働契約を締結した株式会社イー・ディー社(以下「イー・ディー社」という。)が、いわゆる分社を行った結果、イー・ディー社、株式会社イー・ディーアートセンター(以下「アート社」という。)及び被告の三会社(以下「ED三社」という。)となったが、その後、このうちイー・ディー社及びアート社が破産宣告を受けたことから、原告らが、被告に対し、従業員としての地位の確認を求めた事案である。

二  前提となる事実(当事者間に争いがない。)

1  イー・ディー社は、昭和四七年に、アート社は昭和五三年にそれぞれ設立された株式会社である。

2  原告らは、左記の各年月日に、イー・ディー社と労働契約を締結し、左記の各業務に従事してきた。

(一) 原告佐藤一志

平成三年四月一日 デザイナー

(二) 原告広浜綾子

平成四年四月一日 イラストレーター

(三) 原告原田高志

平成三年四月一日 デザイナー

(四) 原告山本弥生

平成三年四月一五日 デザイナー

(五) 原告杉村和美

平成三年一一月一日 編集者

3  原告らは、平成五年五月、ED労働組合(以下「ED労組」という。)を結成し、同年七月からイー・ディー社に対して団体交渉の申入れを行い、労働組合として活動してきた。

4  イー・ディー社は、平成五年八月一日、いわゆる分社を行い、イー・ディー社がアート社及び被告から業務委託を受けてED三社の総務部・経理部の業務を行い、イー・ディー社が行っていた企画開発事業部の業務はアート社が、また、企画編集事業部の業務は新会社として設立した被告が、それぞれ行うこととした。

5  イー・ディー社及びアート社は、平成六年一二月二七日、平成七年一月三一日付けで原告らを解雇する旨の意思表示をしたが、原告らは、解雇の効力を争い、本件訴訟の分離前の被告であるイー・ディー社及びアート社に対し、イー・ディー社及びアート社に対する関係でも原告らがそれぞれ労働契約上の地位を有することの確認を求めている。

6  イー・ディー社及びアート社は、平成七年七月七日、当庁に破産を申し立て、同年九月一二日、イー・ディー社については合計約五億四二九九万円の債務を、アート社については合計約五四四三万円の債務をそれぞれ負担し、支払不能の状態にあるとして、両社に対し破産宣告がされたが、これに対しては即時抗告の申立てがされ、抗告審に係属している。

二(ママ) 争点

原告らと被告との間に雇用関係が存在するか否か。

三(ママ) 争点に関する当事者の主張の要旨

1  原告らの主張

被告、イー・ディー社及びアート社のED三社は、後記のとおり実質的には一つの企業であり、経営者の不当労働行為意思に基づき、分社後のED三社のうちイー・ディー社とアート社が倒産させられたが、法人格否認の法理が適用され、原告らと被告との間に労働契約関係が成立している。

また、原告らは、分社前のイー・ディー社と労働契約を締結したものであるが、イー・ディー社の営業が営業譲渡により第三者に移転した場合には、当然に、労働者たる地位も潜在的・併存的に移転するから、その結果、イー・ディー社及びアート社が倒産した時点で、被告との労働契約関係が顕在化し、被告に対し労働契約上の地位を有する。

(一) ED三社の実質的同一性

以下のとおり、平成五年八月一日の分社後、ED三社は一つの企業として実質的同一性を有していた。

(1) 分社時におけるED三社の役員構成は別紙記載のとおりであり、磯部光雄(以下「磯部」という。)がED三社の代表取締役をすべて兼務していた。また、株主構成においても磯部が直接又はイー・ディー社を介してED三社の支配株主となっていた。

(2) イー・ディー社は、分社に際し、その営業のすべてをアート社及び被告に無償で譲渡し、その結果、イー・ディー社には、本来の業務である出版物の編集、企画及びデザイン等の業務は一つもなくなったが、このような営業譲渡がされたのは、ED三社がグループとして経済的に一体であることから行われたものである。

(3) 分社に際しては、従業員の個別的同意を得ずに、アート社と被告に出向する従業員の振り分けが行われたが、このように個別の同意が不要とされたのは、ED三社がグループ会社で経済的に一体であることに基づく。

(4) イー・ディー社がアート社及び被告との間で締結した業務委託契約についても、委託業務が経理及び総務業務にすぎないのに、委託料定額が月二〇〇万円という破格なものとされているが、これは、イー・ディー社がアート社及び被告の業務に基づいて入金された現金を自由に使用するために把握していたにすぎない。

(5) ED三社は、取引先に対し、分社に際し、三社は一体であると喧伝していた。また、被告が使用しているパソコンは、平成六年三月にイー・ディー社とリース会社との間で契約を締結し、磯部が連帯保証人となり、同年三月から一一月までは、イー・ディー社が毎月四万八〇〇〇円のリース料を支払うなど、ED三社の間では、財産の混同、業務活動及び経理上の処理の混同が反復継続されていた。

(二) 法人格否認の法理の適用

イー・ディー社の営業が無償で被告及びアート社に譲渡されたため、イー・ディー社には、被告及びアート社からの手数料収入及び不動産収入しかなくなったものであり、各収入金額も市場価格とは全くかけ離れた金額とされていたもので、イー・ディー社の法人格は形骸化していたといえる。また、ED三社を支配していたのは、磯部、その妻である磯部充子及び被告の代表取締役の江良達雄(以下「江良」という。)であり、右三名は、ED労組を廃(ママ)除し、かつ、イー・ディー社及びアート社の負担する債務を免れる目的で、イー・ディー社と被告との間で当初成立した業務委託契約及び賃貸借契約の内容を変更し、最終的には、業務委託料の支払はなしとし、賃貸借については賃料を月額一五〇万円から七五万円に減額してイー・ディー社の財政を逼迫させ、他方で、アート社に対しては業務委託費及び賃料を負担させ、イー・ディー社及びアート社を債務超過の状態に陥れて破産させ、ED労組の組合員全員を解雇したもので、法人格の濫用の場合に該当する。

2  被告の主張

(一) 従来、イー・ディー社の業務は、イラスト、デザイン、企画等従業員個人の才能が財産の全てといった事業を展開する会社であったが、平成四年八月ころは、高橋正輝(以下「高橋」という。)が統括する事業部と江良が統括する事業部の二つが存在し、高橋の事業部の採算が悪く、江良の統括する事業部が足を引っ張られる状況となっており、江良としては、自己の事業部に属する従業員らの将来も考え、別会社で事業を行いたいと考え、その旨イー・ディー社の磯部にも進言し、社内討議も経た上、約一年後の平成五年八月一日、別会社である被告が設立された。

被告の新会社設立構想は、平成四年八月ころから始まり、検討が進められていたものであるが、ED労働組合が結成されたのは、平成五年五月二〇日であり、そもそも被告がED労働組合を排除するために設立されたということはあり得ない。

また、ED三社の分社後、イー・ディー社から被告に出向、移籍した従業員も、組合員か否かという基準によったものではなく、江良の事業部に在籍していた従業員が、被告に出向、移籍したにすぎない。

したがって、被告が法人格を濫用したものということはできないし、法人格の形骸化についてみると、イー・ディー社の法人格は形骸化しているということはできない。

(二) イー・ディー社及びアート社が破産宣告を受けたのは、いわゆるバブル経済の崩壊後、広告宣伝関係事業は極端に業績が悪化したためであり、仕組まれたものではない。また、イー・ディー社及びアート社においては、労使関係の対立を避け、高橋等、営業力の高い人物が会社を辞めたことも業績悪化につながったためである。

(三) 被告は、会社設立以後、独立した法人として自社の経営判断、自社の従業員、自社の収支計算で独立した経営を行っており、イー・ディー社及びアート社と被告とは別法人であり、雇用契約、保険及び納税等は法人ごとに規律されており、原告らと被告との間には労働契約は存在せず、被告が原告らに対し、労務の提供を求めたことも、指揮監督及び勤怠管理を行ったことも、賃金を支払ったこともない。

第三争点に対する判断

一  証拠によれば、以下の各事実が認められる。

1  分社の経緯

(一) イー・ディー社では、昭和六一年ころから、事業本部制が採用されており、高橋本部長の企画開発本部、江良本部長の企画編集本部及び勝田(本名は奥谷)登司夫(以下「勝田」という。)が本部長待遇のイラスト業務を行うアート社の三本部に分かれており、業務を行う場所も、企画開発本部及びアート社は新宿区戸山のED第2ビル、企画編集本部は新宿区原町のED第1ビルとそれぞれ異なっていた(<証拠略>)。

(二) その後、高橋の担当する企画開発本部が、仙台で建立される観音像に関するみやげ品等の受注を目的として仙台支社を開設したが失敗に終わり、また、千葉の新聞社の出版物を受注する目的で千葉支社も開設したが思ったほどの売上がなく、いずれも撤退したことなどから(<証拠略>)、事業本部ごとの対立が生じ、磯部はこれを解消するため、イー・ディー社を分社することとした(<証拠略>)。

(三) イー・ディー社は、昭和六三年一一月に、銀行の勧めにより、一億九〇〇〇万円の借入をしてED第2ビルを購入したが(<証拠略>)、その借入金の返済等により、資金繰りが圧迫されて、経営が悪化した。

(四) 平成四年八月三日、磯部が、会社幹部に対し、イー・ディー社を分社する話を発表したが(<証拠略>)、当初は、新会社として二社を設立する予定であった(<証拠略>)(ママ)

2  分社の内容

(一) 被告の設立

イー・ディー社の分社に際し、被告が平成五年八月五日設立されたが、資本金一〇〇〇万円(二〇〇株)のうち、二五〇万円を江良が出資し、設立当初の出資者は、イー・ディー社が一〇二株(五一パーセント)、江良が五〇株(二五パーセント)、磯部が二〇株(一〇パーセント)で、その他に三株から五株までの株主が数名であり(<証拠略>)、被告の代表取締役には、磯部と江良が共同代表として就任した(<証拠略>)。

また、分社後のアート社の代表取締役については、高橋及び勝田が就任を断ったため、磯部の息子の磯部恒基が勤務先会社を退職して就任し、高橋はアート社の副社長に、勝田は取締役となった(<証拠略>)。

(二) 業務委託契約の内容

イー・ディー社と被告及びイー・ディー社とアート社はそれぞれ同年八月一日付けで、出向及び業務委託契約を締結し(<証拠略>)、従業員については、従来のイー・ディー社の企画開発本部及びアート社所属の従業員をアート社に、企画編集本部所属の従業員を被告にそれぞれ出向させることとし、一方、アート社及び被告は、経理・総務等の業務をイー・ディー社に業務委託し、定額の委託料各二〇〇万円及び変動額としてアート社については半期の売上高が九〇〇〇万円を超えた場合、被告については一億二〇〇〇万円を超えた場合、それぞれ超えた金額の一〇パーセントをさらに支払う旨合意した(以下「本件業務委託契約」という。)。この二〇〇万円の金額はイー・ディー社が指示して決定したが、当時、江良においても、被告のイー・ディー社に対する支払は可能であると考えていた(<証拠略>)。なお、イー・ディー社、アート社及び被告の運営費に関しては、イー・ディー社の経理を担当していた磯部(通称は名古屋)充子がED三社の運営費の負担割合について表を作成したことがあった(<証拠略>)。

(三) 賃貸借契約の内容

分社に際し、被告が業務を行うED第1ビルは、磯部光雄個人が所有していたが、これをイー・ディー社が賃借した上、イー・ディー社から被告が賃料月額一四〇万円で賃借し、被告はイー・ディー社から車両・椅子、事務機、電話等も一か月一〇万円で賃借する旨合意した(<証拠略>)。

(四) その他の契約

被告とイー・ディー社との間では、平成五年七月二五日付けでイー・ディー社の営業の一部である企画編集事業部門にかかわる営業を被告に無償で譲渡する営業譲渡契約が締結され(<証拠略>)、その後、平成五年一一月一日付け賃貸借契約改訂合意書により、被告が使用していたイー・ディー社の備品についても被告に無償で譲渡された(<証拠略>)。

(五) 分社後のアート社と被告への従業員の振り分けは機械的に行われ、分社時にイー・ディー社の企画開発部門又はアート社の仕事をしている従業員はアート社へ、企画編集部門の仕事をしている従業員は被告に出向することとなったが、一人だけアート社に在籍していたイラストレーターで、被告のイラストレーターが足りず被告に出向した者があった(<証拠略>)。

また、原告らのうち、分社前に企画編集本部に所属したことのある者はいない(<証拠略>)。

3  組合結成の経緯

平成五年四月一九日、イー・ディー社は、経営が悪化したため、厚生年金保険料及び社会保険料の支払を免れるため休業を仮装して休業届を提出し、従業員に対し社会保険及び厚生年金から脱退した旨通知をした(<証拠略>)。

また、イー・ディー社の社内では、分社計画が噂となっていたため、不採算部門の業務廃止等もあり得ると考えた原告らは、平成五年五月二〇日、原告杉村を執行委員長としてED労組を結成し、イー・ディー社に対し同年七月二二日に組合結成を通知した(<証拠略>)。

4  原告杉村の解雇

イー・ディー社は、平成五年九月三〇日、同年一〇月三一日をもって、原告杉村との雇用契約を更新しない旨の通知をし、これに対し、ED労組は、同年一〇月一八日、イー・ディー社を相手方として、不当労働行為の救済を申し立て、同年一二月一三日、イー・ディー社が原告杉村との労働契約を更新する旨の和解協定が成立した(<証拠略>)。

また、イー・ディー社は、原告杉村に対し、平成六年七月二八日に再度同年一〇月三一日の契約更新を拒絶する旨の意思表示を行ったが、同年八月二日の団体交渉において、イー・ディー社の代表取締役磯部光雄が右意思表示を取り消した(<証拠略>)。

5  原告佐藤の解雇

イー・ディー社は、平成六年二月一〇日、同年三月三一日付けで原告佐藤を解雇する旨の解雇予告をし、これに対し、ED労組は、同年二月二五日、イー・ディー社を相手方として、不当労働行為の救済を申し立て、さらに、原告佐藤が地位保全仮処分(当庁平成六年ヨ第二一〇八五号)を申し立て、同年九月五日、同事件において、イー・ディー社は、原告佐藤の申立てを認諾した(<証拠略>)。

6  平成五年七月二三日の時点で、ED第2ビルの業務は経営不振であると言われていたが(<証拠略>、会社分社化反対申入れ書)、分社後の平成六年三月三一日、アート社の高橋副社長が辞任し、その後も同社のイラストの総責任者の勝田取締役、編集担当者の須崎部長及びイラスト作成能力の優れた高野部長らが退職し(<証拠略>)、これら退職者の営業活動と制作能力はアート社全体の中で高い割合を占めていたため、アート社の経営は悪化した(<証拠略>)。

7  他方、分社後、被告の従業員も辞める者が多数出て、江良は、平成六年八月ころ退職者の増加に関しメモ書を作成した(<証拠略>)。

8  平成六年七月一四日の時点では、被告及びアート社とも、本件業務委託契約等に基づくイー・ディー社に対する負担額を支払っていない状況で(<証拠略>)、磯部が江良に対し催促したりもしていた(<証拠略>)。

同月二三日ころ、ED三社の役員幹部で会議を行い(<証拠略>)、ED三社の再統合についても議論がされたが、意見は一致しなかった。

また、同年八月二日のイー・ディー社とED労組との団体交渉において、磯部会長は、とにかく経営が苦しい、しかし、会社を立て直したいと本気で思っている旨述べた(<証拠略>)。

9  業務委託契約等の変更

(一) 被告は、平成六年四月一六日付けで、被告に勤務していたイー・ディー社の従業員について、イー・ディー社から被告に移籍するものとして、被告との雇用契約書を作成した(<証拠略>)。

また、江良は、平成六年九月一三日付け内容証明郵便により、イー・ディー社の役員を退任する旨の内容証明郵便を送付した(<証拠略>)。

(二) 江良は、イー・ディー社からの独立を目指し、また、分社当時から業務委託料の支払ができない状態となっていたことから、磯部に対し、平成六年九月ころから業務委託料の減額及び賃料減額について強硬に交渉し(<証拠略>)、日付を遡らせて、平成五年一〇月一日付けで業務委託料を二〇〇万円から八〇万円とする契約改訂合意(<証拠略>)及び平成六年四月一六日付けで委託料を八〇万円から零とする契約消滅確認(<証拠略>)並びに平成五年一一月一日付けで賃料を一四〇万円から七五万円に減額する各合意をした(<証拠略>)。

なお、契約改訂合意書及び契約消滅確認書の文面は飯塚が起案したが(<証拠略>)、その時期は、飯塚が取締役に就任した平成六年一一月二九日より前の同年一一月ころであった(<証拠略>)。

(三) 磯部は、平成六年一一月二九日付けで被告の代表取締役を辞任した(<証拠略>)。

(四) さらに、その後、被告は、平成六年一二月か翌七年一月ころにED第1ビルの賃貸借につき、貸主を磯部とし、賃借部分を減らして賃料を四八万八〇〇〇円とする変更合意をした(<証拠略>)。

10  原告らは、平成七年四月一二日、イー・ディー社及びアート社との間で、未払賃金を確認し、一部の弁済を受ける内容の合意をした(<証拠略>)。

また、原告らは、各未払賃金についてイー・ディー社及びアート社の各破産手続において破産債権届出をしている(<人証略>)。

なお、イー・ディ社及びアート社破産宣告前の原告らの給与明細については、イー・ディー社の作成名義のときと、アート社の作成名義のときがあった(<人証略>)。

二  そこで、争点につき判断する。

1  前記認定した事実によれば、イー・ディー社が分社を計画し、これを発表したのは、ED労組が結成されるより前であることが認められるから、イー・ディー社の分社が、ED労組つぶしを目的として行われたとは認められない。

2  また、原告らは、イー・ディー社、アート社及び被告が実質的に同一の企業であると主張するが、ED三社は、法律上、別個の法人格を有しており、イー・ディー社及びアート社と原告らとの法律関係が、被告と原告らとの間の法律関係と同一であるとするためには、法人格否認の法理等の適用の有無を判断すべきであるといえる。

そこで検討するに、前記認定の事実によれば、ED三社は、イー・ディー社の分社後、それぞれ実質的に業務を行い、営業収入を得ていた事実が認められるから、イー・ディー社、アート社及び被告の法人格が形骸にすぎないということはできない。

また、前記認定した事実によれば、被告に出向する者と、アート社に出向する者との振り分けは、分社前の所属により機械的に決定され、組合を嫌悪して恣意的に行われたような事実は認められないし、分社後に、アート社でなく、被告の従業員となった従業員も、多数辞職していた状況からすれば、ED三社の経営状況はそれぞれ現実に悪化していた事実が認められる。

そして、分社後のED三社のうち、イー・ディー社及びアート社が債務超過により自己破産を申し立てたことについては、前記認定の各事実からすれば、イー・ディー社及びアート社の代表取締役であった磯部が、分社後、アート社及び被告からの業務委託費等が契約どおり支払われないため経営状況が改善せず、江良からは業務委託費の減額等を強硬に求められていたこと、アート社の非組合員従業員の退職が続出したこと及びED労組との団体交渉への対応に困難を感じていたこと等から、事業継続の意欲を喪失して破産申立てをしたものと推認され、その後、イー・ディー社及びアート社は債務超過であると認められて破産宣告を受けており、その後もイー・ディー社又はアート社が名称を換えて事業を継続しているようなことはなく、磯部自身も、平成六年一一月に、被告の取締役を退任して被告に対し影響力を有していない事実が認められる。

そうすると、イー・ディー社及びアート社の破産は仮装のものとは認められず、会社の正当な営業廃止行為であって、破産の目的がもっぱらED労組を潰すことを目的とするものとは認められず、法人格濫用の場合にあたるということはできない。

3  さらに、原告らは、分社前のイー・ディー社と労働契約を締結したから、イー・ディー社の営業が営業譲渡により第三者に移転した場合、当然に労働者たる地位も潜在的・併存的に移転するから、原告らと被告との間にも潜在的・併存的な労働契約上の地位が存在しており、イー・ディー社及びアート社が倒産した時点で、被告との労働契約関係が顕在化し、被告に対し労働契約上の地位を有する旨主張するが、前記認定のとおり、イー・ディー社の分社時における従業員の地位については、イー・ディー社とアート社及び被告との間で、出向に関する合意がされ、企画開発事業部に所属していた原告らも、右契約に基づき、アート社に出向して業務を行うことに同意し、イー・ディー社又はアート社から給与の支給を受けていた事実が認められるのであり、原告らと被告との間に労働契約が存在するとは認められず、原告らの主張は採用できない。

4  なお、原告らは、ED三社は実体は一つの企業であり、法人格の濫用の場合に当たると主張し、これに関し、本件記録上、分社後の被告のコンピューターリース契約がイー・ディー社名義でされたこと(<証拠・人証略>)、また、ED三社の共同作業による売掛金の清算については、各会社のした仕事の対価の清算がきちんと行われていない状態であった(<証拠略>)等の事実は認められるが、分社に際し、イー・ディー社が被告の経理・総務業務の業務委託を受けていること等からすれば、このような事実が存在するとしても、原告らと被告との間の雇用契約の存在を推認することはできず,(ママ)原告らと被告との間の雇用契約の存在を基礎づけるものではなく、他に本件記録上、原告らと被告との間に労働契約が存在することを認めるに足りる証拠はない。

三  よって、原告らの本件請求は、いずれも理由がない。

(裁判官 矢尾和子)

(別紙) ED三社の役員構成

1 イー・ディー社

代表取締役 磯部光雄

取締役 磯部充子

取締役 高橋正輝

取締役 奥谷登司夫

取締役 江良達雄

2 アート社

代表取締役 磯部光雄

同 磯部恒基

取締役 磯部充子

取締役 高橋正輝

取締役 須崎信行

取締役 奥谷登司夫

3 被告

代表取締役 磯部光雄

取締役 江良達雄

取締役 小林正樹

取締役 田部定信

取締役 遠藤弘

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